豊橋競輪場

まくる君の部屋

競輪酒場「郷愁劇場」


第一話 まくる君語録「まくる君だもの」
第ニ話 煩悩対談「菖蒲の部屋」
第三話 競輪酒場「郷愁劇場」
  第一夜 昔の競輪場
  第二夜 開場ラッシュ
  第三夜 閉鎖された競輪場
  第四夜 競技自転車
  第五夜 脚質:「逃」「両」
  第六夜 脚質:「追」
  第七夜 車券戦術:連単・連複
  第八夜 車券戦術:ナガシ・ボックス
  第九夜 選手の心理
  第十夜 豊橋競輪を考える
第四話 目隈蓮太郎「蓮太郎が行く」

いつも競輪場の三角スタンドからバンクを見つめる男 大外郷愁。
そのミステリアスな競輪哲学を紐といて、今日も競輪を熱く語ります。

第十夜:豊橋競輪を考える

大外郷愁やあ皆さん、競輪酒場「郷愁劇場」へようこそ。お相手は競輪哲学詩人『大外郷愁』。
今夜のテーマは『大外郷愁』。そうです、最終回の今回は、彼自身について語ります。

いよいよネタ詰まりじゃてわしのことを話すとしよう。以前にも話したかもしれんがわしは元競輪選手、それもニ十数年間先行一本で勝負してきた男なんじゃ。若い頃は一度踏み出したら最後まで一気に踏み切らないとどうしようもなかったのじゃが、30歳を過ぎた頃にどうにか出きってからいったん流すくらいのテクニックは覚えたのじゃ。

しかし周りの先行屋がやるようなだまし逃げや捲りなど、相手の掛かりに合わせた走りなどは最後まで出来ず終いじゃった。結局特別ダッシュ力があるわけでもなく、トップスピードもさほどでもなく、ただけっこう長い間もがいていられるが、いったん緩めると踏みなおしが効かない脚質だったということじゃな。

そんなわしが一度だけ人の後ろを走ったことがあるのじゃ。誘導の後ろを走っていたわしを押さえにきたラインが誘導を交わしたその瞬間、その2番手と3番手の選手がハウスして下げてしまったのじゃ。わしは労することなく番手にはまってそのまま最終周回。1角出口あたりから当時横綱と呼ばれていた選手が7番手から捲りに出たので、最終バックで開けた車間を使って3角入口から番手捲り、それがジャストタイミングで横綱の捲りを捌く形となり並走のまま直線へ。結局外外を泳がされた横綱は最後力尽きてわしが振り切ったのじゃ。

展開として止むを得なかったとはいえ番手捲りは不本意じゃった。じゃが到底勝てないと思っていた横綱を振り切ったこのレースはわしの最後の勲章であったのじゃ。しかし同時にわしの徹底先行にこだわる気持ちも奪っていたのじゃ。その後、行きっぷりの悪い競争をして、それまで何十年も番手を守ってくれていた選手達の信頼を失ったのじゃ。逆にわしも彼らを信用しきれない寂しい気持ちになってしまい、そのまましばらく競走を離れる自分を見つめなおすうちに引退を決心してしまったのじゃ。

周囲の人間はわしの突然すぎる引退に「甘え」だとか「身勝手」だとかいいたい事を言ったが、もう先行一本で走る気持ちをもてない自分と、先行しか出来ない自分の脚質の呪うばかりじゃった。

やがてそんな私の気持ちに区切りをつけてくれたのが、一人息子の存在じゃった。わしのような不器用な先行選手にではなく、まくって、まくって、まくりまくる、捲り選手としての競輪英才教育を始めたのじゃ。

さて、今日は余計な事まで話ししまったの。暖簾をしまっ、おおう、わるいの、しまってくれたんじゃな。あんたにもいろいろ世話をかけたの。えっ?息子の名前、聞きたいか、「大外まくる」じゃ、他言は無用じゃよ。